ご挨拶 Greeting

実行委員会委員長 久保田 勇夫 氏

久保田 勇夫

 多くの関係者の御協力により、ここ福岡の地で「第十三回全国藩校サミット」を開催することとなりました。皆様方に心からお礼を申し上げます。修猷館同窓会の会長をしているということで、その実行委員長を承りました。この大会が多少なりとも皆様の為に、又、世の為にお役に立つものとなれば幸甚であります。
 さて今回のこの地におけるサミットは、様々な観点から今日的な意味があるように思います。
 先ず、今年は、戦後七十年の節目の年であります。そのため先の大戦についてその歴史的位置づけなどが熱心に議論されています。この八月には安倍総理による「戦後七十年談話」が発表されました。これまでは、昭和に入ってからの事象を中心に論じられてきましたが、今は、より長期的に、わが国の近代化の歴史の観点からこれをとらえようとする動きが強いように思います。このような動きは、わが国の過去の歴史を、とくに、長期にわたり平和が続き、その下での学問、経済、社会、文化の成熟をみ、わが国の近代化を導いた江戸時代を振り返ることの大切さを示唆しているように思います。この時期での、江戸時代の各地域の高等教育機関であった藩校教育を焦点にした「藩校サミット」は意義があるものと考えます。
 第二は、わが国のグローバル化が一層進展していることに関連するものであります。人、カネ、モノの移動の自由化は戦後の顕著な特色でありますが、近年はこれに加えて、技術革新に支えられた、各種の情報の瞬時における世界的同時共有がみられるようになりました。この新たな事実は、わが国に対して国際情勢に関して質の高い、深く、かつ、正確な情報を獲得し、これに素早く対応することをなお一層強く求めているように思います。今回のサミットで中心的な人物として取り上げます、修猷館に学んだ金子堅太郎は、若くして欧米を視察し西欧諸国の政治、経済の制度を学び明治憲法の草案を作成しました。又、わが国にとっては大変厳しい結果をもたらすことが予想された日露戦争が勃発すると直ちに米国へ飛び、旧知のルーズヴェルト大統領等に接触し、日露戦争の終結に貢献しました。われわれは当時のわが国のリーダー達が世界的なコミュニケーションの手段が未発達で、かつ、わが国が世界的にそれ程重要でなかった時代において、世界の最新の情勢を極めて正確に把握し、それに適切に対応したことに驚かされます。果たしてわれわれはこのような先達に比肩しうるような対応を可能にするための努力をしているのだろうかと問いかけているように思います。
 第三は、世界において、新たな観点から、アジアについてその重要性が増していることとの関連であります。わが国は、近年、欧米以外の唯一のアジアのメンバーとして「経済サミット」やG7の間において世界の金融、経済政策をリードしています。他方、リーマンショック以来世界の経済成長を支えてきた中国にはこのところその成長率の低下が見られ、今夏に入っては新たに世界の金融不安定化の震源地となっています。これらは、世界が、中国を始めとするアジア諸国についてより深い理解を必要とする時期に入りつつあるとことを示しています。この福岡を中心とした九州の地は、地理的にも歴史的にも大陸諸国とそのつながりが強く、その長い間の諸関係を通じてアジアの人々に対する格別の親しみと理解があるように思います。残念ながら現在のわが国の歴史の教科書には余り紹介されていない人や、世間的には異なった評価をされている人を含め、この福岡の地には、アジアがいかにあるべきかについて、格別の思いを巡らせた人々が育ちました。山座円次郎、明石元二郎、中野正剛、頭山満、杉山茂丸、広田弘毅といった人々です。その思想的系譜は現在も引き継がれているように思います。そういうこの地はアジア情勢の把握やその分析、それを踏まえたこれら諸国への具体的対応策についてわが国、ひいては広く世界に対し新たなヒントを提供しうる場であるのかもしれません。この時期にアジア諸国と格別の係わりのある福岡でこの会合が開かれることにある種の感慨を覚えると言えば言い過ぎでしょうか。
 第四に、現在はわが国にとって、「地方創生」は喫緊のテーマであります。地方の活性化、政府や企業の中枢機能の地方への分散、その政治的表現である地方分権は今後わが国の進むべき道とされています。その際のモデルとして各地方がお互いに競いあい、それぞれのレベルが高かった江戸時代の幕藩体制が何かにつけ参照されることは当然の成り行きでしょう。
 このように考えますと、本年の福岡における「第十三回全国藩校サミット」は意外に広い意味を持つように思います。
 以上、準備にかなりのエネルギーを注いだ者の思い過ごしのところがあるかもしれません。いずれにしろ、これらのことを考えながら、過去十二回の藩校サミットを見習いつつ「第十三回全国藩校サミット」を準備いたしました。
 至らない点も多々あるかと思いますが、今回のサミットに参加してよかったと感じていただければ幸に存じます。